白雪姫は寵愛されている【完】
後は出るだけ。行かなきゃいけないのに。
心の中では分かってる。
だけど…、
静かに椅子に腰を下ろした。
「…っ、後少し…一分だけ…」
こうしている間に帰って来たらどうしよう。もう触れられたくないのに…今よりも先に進んだら?
なんて考えて震えている。
考えただけで怖くて辛い。
──────それでも傍に居たい。
最後…これが最後だから。
針が動けばここを出ていく。
一分…ううん。三十秒だけでいい。
ドアの開く音がし、慌てて振り返る。
「……ッ、!!」
本当は期待していたのかもしれない。
朱雀の誰かが来てくれると。
「……は?なんでお前ここに…」
美琴さんだった。
美琴さんは麒麟のメンバーだった。
そんな彼に見られてしまった。
朔也くんに知らせないわけがない。
「…チッ、サクヤの野郎、ちゃんと繋いどけって言っただろうが」
美琴さんが私の腕を掴み引っ張った。
携帯を持ち何処かに電話を掛ける仕草をする。
「す、ぐ…帰ります!」
「あ゛?」
「もう帰るので…言わないでください…!」
次に何か朔也くんの気に障る事をしたら、朱雀がどうなるか分からない。仁くんに会いに行ったと知れば…どうなるんだろうか?
「すぐ…今すぐ帰ります…だから…」
病室のドアが開いた。
「千雪ちゃん?」
「…難波先輩…」
驚いた顔をした難波先輩が入ってきたのだ。
「連絡取れねーから何かあったんじゃないかって…」
近づいて来た難波先輩に思わず身体を震わせる。
これ以上ここに居るのは危険だと思ったから。
「白藤さんはもう帰るそうです」
別人のような笑顔の美琴さんが言った。