白雪姫は寵愛されている【完】
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サクヤは不機嫌だった。
車の中でイライラは最高潮へ向かう。
ガンッ、と大きな音が鳴る。
大きな音は何度も響く。
「も~…ちょと落ち着きなよぉ~。事故ったらどうすんのぉ?」
サクヤは聞く耳を持たず、助手席を蹴り続ける。運転手は蹴られるたびにビクついていた。
「チッ…あの野郎どこ行った…!クソッ!」
「ナースさんとせんせぇの話じゃ二日は安静にって話だったもんね」
二人は居なくなったことに驚く医者と看護師を怪しみ、脅しを掛けたがどちらも「分からない」と繰り返すばかりだった。
抜かれていた点滴と誰かが座っていた形跡のある椅子。置いてあっただろう特攻服。
「俺等が来るのがバレてたのか?」
「どうだろうねぇ。もしかしらスパイとかいるかもよ?ほらこっちだっているしねぇ?」
阿久津は慣れているのか、気にせずキャンディを舐め始め、携帯をいじる。
「もしいるなら全員殴って吐かせればいいだけだ」
「物騒だなぁ~。ってゆーかその顔怖いって」
阿久津はポケットから手鏡を出す。
それをサクヤの方へ向ける。
「そんな顔してたら、千雪怖がっちゃうよ?」
サクヤはジッと鏡を見た。
次第に表情が元に戻っていく。
「ほんと千雪の事になると、直ぐ顔良くなるんだからぁ。千雪ってば愛されるねぇ~!」
「当たり前だ。俺以外千雪を愛せる奴は居ないからな」
少しだけ笑って窓の外を見る。
さっきまで快晴だったはずの天気がいつの間にか曇天に変わり始めていた。