白雪姫は寵愛されている【完】
玄関の鍵を開けた。
サクヤの手には紙袋。
「ただいま白雪。プリン買って来たから一緒に食べよう?」
靴を脱ぎリビングへ向かう。
想像するのは千雪の嬉しそうな顔だ。食い入るように見ていたテレビに出てきた人気のプリン。
「買ってこようか?」そう言った朔也に千雪は何度も首を振っていた。一個800円の値段に驚いたのだろう。心優しい千雪は少しでもお金を掛けない為に、朔也に対していつも遠慮していたように思える。
だからこそ愛らしくて仕方がないと朔也は思っていた。
「白雪?お昼寝でもしてるのかな?」
リビングにはいない。次は千雪の部屋にノックせず入った。次に朔也の部屋へと入るが誰も居ない。仏壇の部屋もトイレも風呂も。何処にもいない──────。
電話の着信音がなる。相手は阿久津。
「もしもし」
『サクヤぁ!やばいよぉ!』
焦った声が響く。
『ミコトの事バレたんだって!』
「あいつには間違えるなと言ってある」
『ミコトがヘマしたわけじゃないて。えっと…』
「なんだ?」
阿久津は少し困ったように声を曇らせた。
『千雪が言ったみたい。あの病院でジンと会って、それで…一緒に逃げたって』
紙袋をその場に落とした。中に入っていたプリンが床に散乱する。
──────バギッ、
サクヤが殴ったクローゼットが変形した。
「………悪い子だなぁ、」
電話を切った朔也は直ぐにアプリを開いた。表示されたマップに赤い点がずっと動いている。
「俺から逃げられると思うなよ、白雪」
***