白雪姫は寵愛されている【完】


玄関の鍵を開けた。
サクヤの手には紙袋。


「ただいま白雪。プリン買って来たから一緒に食べよう?」


靴を脱ぎリビングへ向かう。

想像するのは千雪の嬉しそうな顔だ。食い入るように見ていたテレビに出てきた人気のプリン。

「買ってこようか?」そう言った朔也に千雪は何度も首を振っていた。一個800円の値段に驚いたのだろう。心優しい千雪は少しでもお金を掛けない為に、朔也に対していつも遠慮していたように思える。


だからこそ愛らしくて仕方がないと朔也は思っていた。


「白雪?お昼寝でもしてるのかな?」


リビングにはいない。次は千雪の部屋にノックせず入った。次に朔也の部屋へと入るが誰も居ない。仏壇の部屋もトイレも風呂も。何処にもいない──────。


電話の着信音がなる。相手は阿久津。


「もしもし」

『サクヤぁ!やばいよぉ!』


焦った声が響く。


『ミコトの事バレたんだって!』

「あいつには間違えるなと言ってある」

『ミコトがヘマしたわけじゃないて。えっと…』

「なんだ?」


阿久津は少し困ったように声を曇らせた。


『千雪が言ったみたい。あの病院でジンと会って、それで…一緒に逃げたって』


紙袋をその場に落とした。中に入っていたプリンが床に散乱する。

──────バギッ、
サクヤが殴ったクローゼットが変形した。



「………悪い子だなぁ、」



電話を切った朔也は直ぐにアプリを開いた。表示されたマップに赤い点がずっと動いている。



「俺から逃げられると思うなよ、白雪」




***
< 303 / 344 >

この作品をシェア

pagetop