絶え間ない心変わり
そんなわけで、河岸さんを思いきって誘った数日後。
河岸さんの行きつけのバーで会うことがあっさり叶った。
「ああ、こっち」
先に待っていてくれた河岸さんが、私を見つけて軽く手を挙げた。
ラフではあるものの、全身を絶妙なモノトーンでまとめているスタイルには一瞬くらっとする。
身長もわりと高めだし、鍛えている様子はないのに細身でバランスがいい。
顔立ちはあっさり塩顔。
憂いのある瞳は笑う時に細められ、独特の色気が漂う。
世界観が好きだと思っているものの、正直、外見もかなり私の好みなのだった。
「こんばんは」
「バラ園で会って以来ですね」
席に着くと、先に飲んでいた様子の彼がそう言って小さなメニュー表を差し出す。
「俺はビール飲んじゃってますけど」
「じゃあ同じでお願いします」
「OK」
慣れた感じでバーテンさんに私のビールと自分のお代わりを頼んだ。
「空腹だったらここ、パスタとかも頼めるんで言ってください」
「はい」
頷いてから、次の言葉に困る。
(もう言い出してしまおうか)
「あの。今日はお仕事と関係ないのに……ありがとうございます」
「相談って仕事のことじゃないんですか」
「そ、そうなんです」
(すでにキャラが崩壊している気が……)
すぐにやってきたビールを目の前にして、急に緊張が高まるのを感じた。
「亜世さん、いつもと雰囲気違いますね」
「そ、そうですか?」
(やっぱりバレてる! 落ち着け、落ち着け……少しずつだよ)
焦りを消すために、グラスに綺麗に注がれたビールを半分くらいを一気に飲む。
「そんなに深刻なんですか?」
私が呼び出したことにもだろうし、一気にビールを飲む姿にも驚いている様子だ。
「深刻というほどじゃないですが、悩んではいます」
嘘ではない程度に、私は片思いの人に思いを告げるか悩んでいると伝えた。
恋愛相談だとわかり、河岸さんはさらに驚いた様子で私を見た。
「それは、この前のレンタル彼氏とは別の人ですか?」
「実は……同じ人です」
一瞬河岸さんの目が大きく開いた。
「結局、そういうことになったんですか」
「割り切っていたつもりだったんですけど……」
「本気になっちゃった?」
「そう、ですね」
嘘と本当を混ぜて話すっていうのは、なんとも苦々しい。
「河岸さんは恋愛にお詳しそうだったので」
そう言うと、彼はくすくすと笑って別に詳しいわけじゃないと言った。
「俺は付き合った女性は忘れちゃうんで」
「そうなんですか?」
「酷いでしょ」
自嘲気味にそう言う彼は、わざと自分を酷い男だと演じているように見えた。
「本当に忘れているなら、それは幸せなことじゃないですか?」
「ですかね」
「だって大抵の恋愛って、忘れられないから苦しいんですよね。河岸さんだって過去の恋愛を完全に忘れてないから……ああいう文章が書けるんじゃないんですか?」
彼は不意を突かれた表情をして、また笑った。
「今日は随分俺への評価が甘めなんですね」
「そう、ですね。今までちょっと酷いことを言ってしまってたかな……って反省してます」
これが私の素の状態だ。
河岸さんからしたら、確かに別人だと思うところもあるだろう。
それを示すように、彼は笑顔を消して私から視線を逸らした。
「調子狂うね……でもまあ、亜世さんが片思いに悩んでるってことはわかりました」
真面目に相談に乗ってくれようとしているのを感じ、胸が痛む。
聡太を好きだったのは過去のことで……
今、悩んでいるのは、目の前にいるあなたと親しくなりたいからなんだって。
どう伝えたら、上手に伝わるんだろう。
「話を聞くに、その男性はあなたのこと相当に好きなんじゃないですか?」
「ええっ」
驚きのあまり声がうわずってしまう。
聡太が私を好きって?
過去にそういう時もあったかもだけど。今はあり得ない!
「それはないんですよ」
「なんでわかるんですか」
「彼はいつだって女性には不自由してないんです」
私が知っている聡太はチャラくて軽薄で……河岸さんよりもっと女性を泣かせてる。
そんな印象だ。
「そんな人が、どうして触れることもせずに亜世さんには時間を割いてくれるんですか」
「そ、それは。私が彼にお金を払って予約をしているからですよ」
(実際、レンタル時間以外では会うことはないし)
そうは思ってみるものの、あの聡太がどうして私の恋愛におせっかいを焼くのかは理解できていない。
(だからって、聡太が私を……なんて考えられない)
高校時代からの縁を感じて、放っておけないと思ってくれている。
私はそう捉えている。
でも、河岸さん的には徹底して体の関係を持たない姿勢が逆に怪しいと……。
「怪しい、ですか」
「なんか理由があるんじゃないですかね……亜世さんに触れない理由」
「……あるのかな」
「多分」
確証はないというふうに、彼は肩をすくめた。
河岸さんの行きつけのバーで会うことがあっさり叶った。
「ああ、こっち」
先に待っていてくれた河岸さんが、私を見つけて軽く手を挙げた。
ラフではあるものの、全身を絶妙なモノトーンでまとめているスタイルには一瞬くらっとする。
身長もわりと高めだし、鍛えている様子はないのに細身でバランスがいい。
顔立ちはあっさり塩顔。
憂いのある瞳は笑う時に細められ、独特の色気が漂う。
世界観が好きだと思っているものの、正直、外見もかなり私の好みなのだった。
「こんばんは」
「バラ園で会って以来ですね」
席に着くと、先に飲んでいた様子の彼がそう言って小さなメニュー表を差し出す。
「俺はビール飲んじゃってますけど」
「じゃあ同じでお願いします」
「OK」
慣れた感じでバーテンさんに私のビールと自分のお代わりを頼んだ。
「空腹だったらここ、パスタとかも頼めるんで言ってください」
「はい」
頷いてから、次の言葉に困る。
(もう言い出してしまおうか)
「あの。今日はお仕事と関係ないのに……ありがとうございます」
「相談って仕事のことじゃないんですか」
「そ、そうなんです」
(すでにキャラが崩壊している気が……)
すぐにやってきたビールを目の前にして、急に緊張が高まるのを感じた。
「亜世さん、いつもと雰囲気違いますね」
「そ、そうですか?」
(やっぱりバレてる! 落ち着け、落ち着け……少しずつだよ)
焦りを消すために、グラスに綺麗に注がれたビールを半分くらいを一気に飲む。
「そんなに深刻なんですか?」
私が呼び出したことにもだろうし、一気にビールを飲む姿にも驚いている様子だ。
「深刻というほどじゃないですが、悩んではいます」
嘘ではない程度に、私は片思いの人に思いを告げるか悩んでいると伝えた。
恋愛相談だとわかり、河岸さんはさらに驚いた様子で私を見た。
「それは、この前のレンタル彼氏とは別の人ですか?」
「実は……同じ人です」
一瞬河岸さんの目が大きく開いた。
「結局、そういうことになったんですか」
「割り切っていたつもりだったんですけど……」
「本気になっちゃった?」
「そう、ですね」
嘘と本当を混ぜて話すっていうのは、なんとも苦々しい。
「河岸さんは恋愛にお詳しそうだったので」
そう言うと、彼はくすくすと笑って別に詳しいわけじゃないと言った。
「俺は付き合った女性は忘れちゃうんで」
「そうなんですか?」
「酷いでしょ」
自嘲気味にそう言う彼は、わざと自分を酷い男だと演じているように見えた。
「本当に忘れているなら、それは幸せなことじゃないですか?」
「ですかね」
「だって大抵の恋愛って、忘れられないから苦しいんですよね。河岸さんだって過去の恋愛を完全に忘れてないから……ああいう文章が書けるんじゃないんですか?」
彼は不意を突かれた表情をして、また笑った。
「今日は随分俺への評価が甘めなんですね」
「そう、ですね。今までちょっと酷いことを言ってしまってたかな……って反省してます」
これが私の素の状態だ。
河岸さんからしたら、確かに別人だと思うところもあるだろう。
それを示すように、彼は笑顔を消して私から視線を逸らした。
「調子狂うね……でもまあ、亜世さんが片思いに悩んでるってことはわかりました」
真面目に相談に乗ってくれようとしているのを感じ、胸が痛む。
聡太を好きだったのは過去のことで……
今、悩んでいるのは、目の前にいるあなたと親しくなりたいからなんだって。
どう伝えたら、上手に伝わるんだろう。
「話を聞くに、その男性はあなたのこと相当に好きなんじゃないですか?」
「ええっ」
驚きのあまり声がうわずってしまう。
聡太が私を好きって?
過去にそういう時もあったかもだけど。今はあり得ない!
「それはないんですよ」
「なんでわかるんですか」
「彼はいつだって女性には不自由してないんです」
私が知っている聡太はチャラくて軽薄で……河岸さんよりもっと女性を泣かせてる。
そんな印象だ。
「そんな人が、どうして触れることもせずに亜世さんには時間を割いてくれるんですか」
「そ、それは。私が彼にお金を払って予約をしているからですよ」
(実際、レンタル時間以外では会うことはないし)
そうは思ってみるものの、あの聡太がどうして私の恋愛におせっかいを焼くのかは理解できていない。
(だからって、聡太が私を……なんて考えられない)
高校時代からの縁を感じて、放っておけないと思ってくれている。
私はそう捉えている。
でも、河岸さん的には徹底して体の関係を持たない姿勢が逆に怪しいと……。
「怪しい、ですか」
「なんか理由があるんじゃないですかね……亜世さんに触れない理由」
「……あるのかな」
「多分」
確証はないというふうに、彼は肩をすくめた。