桜の華 ― *艶やかに舞う* ―
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「ねぇ、私の記憶戻ると思う? 
なんかぁ、子供の一番可愛い盛りの頃のことを忘れるなんてすごく残念だよ」

「だいじょうぶだよ、俺が側にいる。
あまりくよくよしないで奈々子と3人の生活を楽しもう。
そのうち、自然に記憶なんて戻るさ」


「そうよね。俊ちゃんがいるから大丈夫よね。
私、俊ちゃんみたいなやさしい人が旦那さんでほんと良かった」

「俺も、桃が奥さんで良かったよ」

「私たち、ラブラブだね、ふふっ」
そう言うと、桃が俺の腕に顔をくっつけてきた。


『幸福な時間よ、するりとこの腕から抜け落ちないでくれ』
そう願いながらその夜、俊は眠りについた。



          ◇ ◇ ◇ ◇



翌朝早くに俊に舅から電話が入った。
隣で寝ている桃を気遣い、そっと俊はリビングへと移動した。


「おはよう、朝早くにすまない」

「いえ、もう目が覚めていたので大丈夫です」


「昨夜はバタバタしていて気が回らなかったんだが、娘や孫の洋服やら
布団やら、他にこまごましたもので気がついたものを取り敢えず康江と一緒に
そちらへ持って行こうと思ってね。

私も会社に行かなきゃならないのでちょっと早いが今から持って行って
いいだろうか」

「助かります。実は昨夜布団が不足していることに僕も気が付いて
ご連絡しなきゃな、なんて思っていたところです」

電話での遣り取りを終え、舅、姑が荷物を持ってきてくれた時、桃と奈々子は
まだ寝ていた。

舅が出社するのを見送ると、姑が持ってきた食材で朝食の用意をしてくれ、
俊も朝食を終えてそのまま出社した。

今日、明日としばらく午前中は姑が家に来てくれるという。

結婚前に妻の実家近くに住むと言うと『しょっちゅう娘や孫の顔を見に来て
うっとおしいからやめておけ』とアドバイスをくれた先輩もいたが、
こうなってみると、妻側の実家近くに居を構えたのは正解だったなと思う
俊だった。
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