戦略的恋煩い
 なんだ、杞憂だった。でも口の利き方には気をつけよう。肝に銘じながら抱きつくのをやめて「頂戴いたします」と両手で受け取ると、そこには日本人なら誰しもが知っている超大手の総合商社の名前が。

 ここ、知ってる。5年目で年収が1000万超えるって聞いて、横領してお縄にかかった元同僚と羨ましいね、と話していたことを思い出す。


「大手商社マンじゃん……」

「本物か疑うなら、辻律輝って男は在籍してますかってここに電話したらいい」


 目を見開いて凝視すると、律輝は会社の電話番号を記載している部分を指さした。いや、名刺もらった時点で信じるよ。じゃないと新卒から4年目で高級車乗り回せないし。


「同年代にしては割と稼いでる方だと思う。どう、惚れる要素になりそう?」

「尊敬します、私の3倍くらい稼いでると思います……」


 現金な女なら、ここですぐ律輝に交際を申し込むところだろう。だけどここで「惚れました」なんて言った暁には年収で男を選ぶ女なんだ、とレッテルを貼られそうで嫌だ。


「惚れた?」

「年収で惚れるとか最低だよ。でもすごいね。この会社毎年倍率すごいのに」

「小夏のそういうちゃんとしてるところ、好き」


 構わず惚れたかどうか訊き出そうとする律輝に、あくまで内面で決めたいと伝える。すると律輝は頬をゆるませるものだから、釣られて口角が上がった。
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