神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜
で、今日もベリクリーデの仕事を、俺が代わってやっていたのだが。

そこに、

「じゅーりーすー。あーそーぼー」

唐突に、仕事部屋の扉がガチャッ、と開けられた。

ノックすらせずに、いきなり開けやがった。

こんな無礼を働く奴は、一人しかいない。

「…おい、こら。ベリグリーデ」

「あ、ジュリスいた」

いるわ。

「あのな、あーそーぼーじゃないんだよ。遊んでる暇ねぇし、今どき幼稚園児でさえそんな、」 

「ジュリスあそぼー」

ベリグリーデは、目をキラキラとさせていた。

…聞いてる?俺の説教。

良いか?俺は今、お前の分の仕事をしてるんだぞ。

「…せめて、ノックをしてから入りなさい。男の部屋だぞ」

「あのねジュリス。お人形さんの着せ替えしてあそぼー」

「幼稚園の女の子かよ、お前は」

着せ替え人形って。今どき、そんなんで遊ぶ子、いるのか?

ちっちゃい女の子ならともかく、こんなでっかい図体でお前…。

しかし。

「あそぼー」

俺をお人形遊びに誘うベリクリーデの顔は、無邪気な子供そのもの。

…女の子はいつまで経っても女の子、ってことなのかもしれない。

これが他の奴だったら、遠慮も容赦もなく、問答無用で「出てけ!」と追い出すんだけどなぁ…。

どうもベリクリーデ相手だと…。

俺は、ポリポリと頭を掻いた。

どう断ったら良いもんかね。

「あのな…。俺、今仕事中」

「ほぇ?」

「ほぇ、じゃなくて。今忙しいから。お前の仕事してるから」

「そっかー。ジュリスは頑張り屋さんだね」

「…」

お前も同じくらい頑張って欲しいもんだかな。

こいつの頑張りの方向性って、大抵間違ってるんだよ。

しかも、大きく間違っている。

「例え現場での任務がなくても、聖魔騎士団の大隊長にはたくさんの仕事や、役目がある。お前もそうだろ?」

「…」

考えるベリクリーデ。

「いかなる時も、人の手本にならなきゃいけないんだ。こんなところでお人形遊びなんかしてたら格好がつかないだろ。人を助け、手伝い、人の役に立つのが俺達の役目、」

「うん、分かった」

は?

「分かった。私、ジュリスみたいに頑張る」

「お、おぉ…?」

ベリクリーデは、しゅばっ、と立ち上がった。

そして。

「ジュリスみたいに、人の役に立つよ。おー」

とか言って、俺の部屋から意気揚々と飛び出していった。

…どうでも良いけど、着せ替え人形を持って帰れよ。

何で俺の部屋に置きっぱなしなんだよ。

まぁ、なんだ。仕事にやる気が出たのは良いことだ。

でも、何だろう。

一抹の不安が残る…。
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