神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

sideジュリス

――――――…突然、キュレムとルイーシュがベリクリーデを連れて、俺の部屋にやって来た。

それは別に問題じゃない。

問題は、そのベリクリーデがべそをかいていた。

このことである。

今日は朝から姿を見ないな、とは思っていたけど…。

…これは一体何事だ?

誰だよ。ウチのベリクリーデを泣かせたアホ野郎は。

俺の前に連れてきてみろ。…ぶっ飛ばしてやる。

まずは、ベリクリーデを泣き止ませることが先決。

「ほら、もう泣くなって」

俺は、ベリクリーデにハンカチを手渡した。

お前が泣いてたら、心配になるだろ。

普段ぽやーんとしてるような奴がさ。

「う〜…」

「誰だ?お前を泣かせたのは」

「…ん〜…」

「…言いたくないか?」

それなら、無理に聞き出すことは…。

いや、やっぱり腹が立つから教えてくれ。

そいつをぶっ飛ばしてやらないと、俺の気が済まない。

しかし。

「…シュニィ」

と、ベリクリーデは答えた。

…まさかの人物だった。

シュニィか…。…そうか…。

…ぶっ飛ばしてやるとか意気込んでたけど、やっぱり撤回しても良いか?

だってシュニィをぶっ飛ばそうものなら、後で俺がアトラスにぶっ飛ばされるだろ。

世の中、手を出しちゃいけない相手ってのはいるんだよ。

さすがの俺も、キングコブラが出ると分かってる藪をつつく趣味はない。

…それにしても。

「…シュニィって、マジかよ…?」

ベリクリーデを疑う訳じゃないが、シュニィに泣かされたなんて信じられない。

だって、シュニィだぞ?

他人への優しさと親切心が、服を着て歩いてるような奴だぞ。

いつだって人に対する気遣いを忘れず、自分を中傷する相手にだって優しさを見せる。

そのお人好しぶりと来たら、よくもまぁそこまで人に優しく出来るもんだ、と思わず呆れてしまうほど。

言葉で他人を傷つけたこともないし、ましてや理不尽な暴力なんて振るっているのも見たことがない。

いつでも、いかなる時でも、優しい笑顔と寛容な心を忘れない。それがシュニィ・ルシェリートという女性だ。

だからこそ、俺達聖魔騎士団の魔導師達も、彼女に信頼を寄せている。

そんなシュニィが…。…ベリクリーデを泣かせる?

一体何があったんだ。

普段怒らない奴が怒ると怖い、って言うからな。シュニィを怒らせたんだろうか?

何だ。何がシュニィの怒りに触れたんだ?

「いい加減真面目に仕事をしろ!」とか?

そりゃまぁ、100%シュニィの言うことの方が正しいが。

ベリクリーデに説教をする前に、俺に一言相談して欲しかったな。

そうしたら、シュニィの代わりに俺が言うから。

…でも、今更そんなこと言うか?シュニィが。

ベリクリーデが真面目に仕事をしないのは、いつものことだろ。

…いや、いつものこと、にしちゃいけないんだけどさ。
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