神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜
「ベリクリーデ…一体何があったんだ?」

シュニィは一体、ベリクリーデに何を言ったんだ。

って言うかベリクリーデこそ、シュニィに何をしたんだ?

…すると。

「…あのね、絵を見せてくれたの」

と、ベリクリーデは説明してくれた。

「絵…?何の?」

「シュニィの似顔絵…。シュニィの子供達が描いてくれたんだって。…母の日のプレゼント、なんだって」

「…あ…」

なんか…ようやく、話が見えてきたぞ。

「子供達にもらったんです、って…。シュニィ、嬉しそうに見せてくれたの」

「…」

「凄く嬉しそうだったんだよ」

…だろうな。

可愛い我が子達が、母の日のプレゼントにって、自分の似顔絵を描いてくれたんだぞ。

たかが幼児の描いた絵でも、それが自分の似顔絵、ましてや母の日のプレゼントなんて。

シュニィも、さぞかし嬉しかったことたろう。

「何だか良いなぁって。私、お母さんいないから」

「…」

「そう考えると、何だか寂しくて…」

…それで泣いてたのか。

話は聞かせてもらった。

ベリクリーデを泣かせた不埒者は、ぶっ飛ばしてやろうと思ってたけど。

事情を聞いた今、シュニィに対する怒りはまったくなかった。

…そうか。

シュニィだって、ベリクリーデに親がいないことは分かっているはずだ。

普段のシュニィなら、ベリクリーデに気を遣って、「親」に関する話題は口にしないはずだ。

それでも、今回シュニィがベリクリーデに、子供達が描いてくれた似顔絵を見せたってことは。

きっと、よっぽど嬉しかったんだろう。

そりゃ嬉しいよな。ちょっと前まで赤ん坊だった子供達が、自分の為に似顔絵を描いてくれるようになるまで成長したんだから。

親なら、誰だって嬉しいに決まってる。

シュニィは悪くない。

強いて言うなら、迂闊にシュニィに話しかけたベリクリーデの方が…。…って、ベリクリーデも悪くないよな。

誰も悪くないのだ。

…ぶっ飛ばす相手、いないな。

代わりに今度、クロティルダでも殴っておこう。

「…元気出せよ、ベリクリーデ」

「…しゅーん…」

…まぁ、いくら慰めようと思っても。

下手な励ましの言葉は、むしろ逆効果にしかならないよな。

親のいないベリクリーデにとっては、両親に可愛がられ、愛情いっぱいに育てられているルシェリート家の子供達なんて、夢のまた夢。

想像もつかない世界だろう。

普段は忘れているし、意識することもないが。

こうして…母の日、なんてイベントで世間が浮かれてる時なんかは、どうしても思い出してしまうよな。

…こればっかりは、どうしようもない。
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