神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜
俺とルイーシュは、ベリクリーデちゃんを連れてジュリスの執務室に駆け込んだ。

「おいコラぁぁ!ジュリス!!」

「うわっ!何だ…!?」

ジュリスは部屋の中で、机に向かって何やら書類仕事に打ち込んでいた。

「貴様、部屋にこもって何やってんだ…!?」

「何って…仕事に決まってんだろ?」

そうか。それはお疲れ様。

…でも、今はそれどころじゃないからな。

「そんなことやってる場合か!」

「はぁ…?何だよお前ら、急に入ってきて…」

「これが目に入らぬか!」

印籠を掲げるかのごとく。

俺はベリクリーデちゃんを前に出し、その涙に滲んだ儚げな顔を、ジュリスに見せた。

…途端、ジュリスは驚愕のあまり両目をかっ開いた。

予想通りの反応。

「ベリクリーデ…!?お前、どうした…!?」

「…ぐすっ」

涙目のベリクリーデちゃんが、鼻を啜り上げるのを見て。

ジュリスは手にしていた万年筆も、目の前の書類も放り出し。

急いで、慌ててベリクリーデちゃんに駆け寄ってきた。

良かった。

もしかして、ジュリスはベリクリーデちゃんがべそをかいているって知りながら、放置していたんじゃないかと心配だったのだ。

でも、ジュリスのこの反応。

やっぱり知らなかったんだな。

ま、そりゃそうだよな。

ベリクリーデちゃんがピンチに陥っているのを知りながら、放置しているジュリスじゃない。

…放置どころか。

「一体どうした?お前を泣かせたのは誰だ…!?」

ジュリスにあるまじき、めちゃくちゃ怖い顔。

「…しゅーん…」

駄目だ。ベリクリーデちゃん、落ち込んじゃってる。

「…」

ジュリスはそれを見て、更に険しい顔。こわっ…。

普段怒らない奴が恐ると怖いって言うが、あれは本当だな。

ジュリスは何も、ベリクリーデちゃんに怒っている訳じゃない。

ベリクリーデちゃんを泣かせたであろう誰かに怒っているのだ。

…これは、俺らが出る幕じゃないかもなぁ。

「…ジュリス、俺らは…」

「…悪いんだが、キュレム、ルイーシュ。ここは俺に任せてくれるか」

あっ、はい。すみません。

出ていってくれってことね。分かる分かる。

「…よし、じゃあルイーシュ。俺達お邪魔虫は出ていくか」

「そうですね。ホッケ定食食べに行きましょう」

やめろって。まだホッケかどうか分からないだろ。

じゃ、後のことはジュリスに任せて、俺達は出ていくよ。

でもこのままじゃスッキリしないから、後で事の顛末くらいは教えてくれよな。
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