神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜
さて、ベリクリーデの部屋の前までやって来た俺。

こんこん、と扉をノックしてみた。

「おい、ベリクリーデ。いるか?起きてるか?」

…しーん。

何の反応もなし。

…いないのか?

まさか、まだ寝てる…?

「ベリクリーデ。俺だ、ジュリスだ。いるのか?」

更にノックを続けてみる。

…が、やはり反応無し。

こうなったら、仕方がない。

「…ベリクリーデ。入るぞ?」

2回ノックしたからな、俺。開けないのが悪い。

俺は、扉を開けて中に入った。

相変わらず、部屋に鍵をかけない女、ベリクリーデ。

まぁ、この場合は助かるが…。

「ベリクリーデ…?何処だ?」

ベリクリーデの姿を探して、部屋の中をぐるりと見渡す。

…いなかった。

ベリクリーデの姿はなく、代わりに…。

「べりくりー…で…?」

「…すぴー…」

…ベッドの上に、何かがいる。

何かが、ベリクリーデのベッドで眠っている。

だぼだぼの大人用のパジャマを着た、1〜2歳くらいの赤ん坊が。

「…だ、誰だお前!?」

「…ふえっ」

俺が大声を出したことで、赤ん坊が驚いて目を覚ました。

「…ふぇぇぇ」

大きな瞳に、じわっ、と涙の粒が滲む。

「ご、ごめん。驚かせるつもりは…」

「ふぇぇ」

俺は慌てて、赤ん坊に駆け寄った。

そして、気づいた。

…この赤ん坊、誰かに似ている。

俺がたった今探していた「彼女」に、あまりにも似ていた。

「まさか…ベリクリーデの…娘…!?」

「…??」

きょとん、と首を傾げる赤ん坊。

この仕草、間違いない。ベリクリーデと同じだ。

癖が遺伝してんじゃん。

あいつ、いつの間に出産なんかしてたんだ…!?

めちゃくちゃ焦る俺。と同時に、込み上げる怒り。

父親は誰だよ。

連れてこい。ぶっ殺してやる。

もしかして、父親はクロティルダか?

もしそうなら、俺は今からイーニシュフェルト魔導学院に行って、シルナ・エインリーに神殺しの魔法を教えてもらう。

そしてクロティルダを抹殺する。

…って待て、落ち着け、俺。

俺はずっとベリクリーデと一緒にいるが、あいつが妊娠しているなんて、子供がいるなんて、そんな様子はまったくなかった。

昨日まで、いつものベリクリーデだったはずだ。

まぁ…昨日は、ちょっとメンタル不調だったようだが。

いつも一緒にいるんだから、妊娠していたら、ましてや出産なんかしてたら、絶対に気づく。

この子はベリクリーデの子じゃない。

いや…むしろ…。

「これ…ベリクリーデのパジャマだよな…?」

俺の頭の中は、絡まり合ったスパゲッティのように大混乱状態なのに。

赤ん坊は、呑気にちゅくちゅくと指を吸っている。

その赤ん坊は、ベリクリーデが普段着ているのと、全く同じパジャマを着ていた。

大人用のパジャマだから、だぼだぼだけど。

赤ん坊が、ベリクリーデのパジャマを着せられていると言うより…。

…パジャマを着て寝ていたベリクリーデが、縮んだ?

という考えに思い至って、俺は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
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