空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「あの日、海の中から助けてくれた時から。あなたはずっと、私を助けてくれる」
「それが、俺の使命だからです」

 急に凌守さんが口を挟んだ。思わず彼をじっと見る。
 彼はゆっくりとこちらを振り向き、私の顔を覗き込むようにして言った。

「少しだけ、俺の昔話を聞いてくれますか?」

 私はコーヒーカップを手にしたまま、こくりと頷いた。すると彼は、再び海の方を向いて話し出す。

「海上保安官になって、最初に配属された部署での仕事は、不審船の取締でした。今は救難系の仕事に就いていますが、当時していたのは海上の警察のような仕事です。拳銃を、人に向けたこともあります」
「え……?」

 思わず彼をまじまじと見る。凌守さんは硬く、どこか険しい顔で海を見つめていた。

「海の安全を守るためには、そういう仕事も必要だと頭では理解していました。密漁、密輸、海賊。実際に対峙したのはわずかですが、でもその度にやるせなくて――海から人を守るために海上保安官になったのに、俺は何をしているんだと、自身に問いました」

 海上保安官としての、彼の苦悩に胸が痛くなる。
< 100 / 210 >

この作品をシェア

pagetop