空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 面映ゆい空気。穏やかな波の音。優しい秋の日差しが、私たちを包む。

 しかし、それは次の瞬間、一瞬で切り裂かれた。

「あら、海花じゃない」

 悪意の見え隠れする、甘ったるい声が私の名を呼んだのだ。
 ぞくりと背筋が粟立ち、一気に背中が冷たくなる。

 見なくても誰か分かる。心臓はバクバクという音に変わり、思考が恐怖に染まる。
 だけど、私は声の主を確かめたくて、おそるおそる声の方を振り向いた。

 バカンスの恰好をした麗波が、与流さんと腕を組み、そこに立っていた。
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