空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む

2 知られたくなかった過去

「こんなところで会うなんて、奇遇ね」

 麗波は与流さんの腕にべったりとくっついたまま、わざとらしくニコッと笑みを浮かべた。

 ひと気の少ない、平日午前のマルマロスロード。私はベンチの上、凌守さんの隣に腰かけたまま、彼女の言葉に体を強張らせていた。

「お父様に、あなたのホテルの最上階の、プレオープンを予約してもらったの。これから素敵な夜を過ごすのよ」
「そう、なんですね」

 何か話さなくてはと、口が勝手に動いた。だけど、体は余計に強張るし、そのせいで虫のような声しか出せない。

「なにか、おっしゃった?」

 彼女が私の方へ近づいてくる。思わず体を縮こませ、ひっと息を呑む。

「誰だ、お前は」

 凌守さんは硬い声で言いながら、私の腰をぐっと抱き寄せてくれた。
 息を吸い込むと、凌守さんの香りがして、固まっていた気持ちと体が少しほぐれる。だけど、体の震えは収まらなかった。
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