空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 私はなんて答えて良いか分からなくなり、彼の瞳を見つめたまま黙り込んでしまった。

 さわやかな秋の風が、ほんのりと潮の香りを乗せて吹き抜ける。トクトクと、心臓だけがやたらと早く動いている気がする。

「でも――」

 戸惑い、やっと開いた口から飛び出た言葉はそれだった。先ほど、凌守さんに否定された言葉だと思い出し、その続きを紡げなくなってしまう。
 言いかけたまま再び黙り、俯こうとしたところで、彼が口を開いた。

「『でも』は不要だって、分かってくれたんですね」

 凌守さんはそう言うと、満足そうに笑って体の向きを変えた。

「行きましょうか」
「……はい」

 ゆっくりと歩き出した彼とともに、私も歩き出す。
 彼の言葉のおかげで、少しだけ心が軽くなった。だけど、やっぱり心の中では申し訳なさを感じていた。

『海への苦手意識』の克服というだけで、彼はたくさんの協力をしてくれた。にも関わらず、麗波のことでも迷惑をかけてしまった。

 私は複雑な気持ちのまま、彼と家路を歩いた。
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