空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 やがて、社員寮のアパートの入口前につく。

「今日はいろいろと、ありがとうございました」

 ここまで送ってくれた彼を振り返り、頭を下げた。すると彼は、どこか複雑そうな顔をする。

「なにかあったら、すぐに連絡してくださいね。ひとりで、抱え込まないで」
「はい」

 心配そうに眉をひそめる彼に、私はこくりと頷いた。
 だけど、これ以上私のことで、彼に迷惑はかけられない。
 頷いたまま頭を上げられないでいると、凌守さんは私の頭にぽすっと大きな手を置いた。

「お仕事も、頑張ってください。もし、遊覧船に乗るのが怖かったら、また同乗の練習を――」
「それは大丈夫です!」

 私は慌てて口を開き、顔を上げた。

「いざとなったら下ろしてもらいますし、もう凌守さんには十分すぎるくらいしてもらいましたから」

 そう言うと、凌守さんは複雑な笑みを浮かべる。その顔を見ていると、また凌守さんに頼ってしまいたくなりそうで、私は視線を落とした。
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