空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「皆さん、仕事で乗るんですからね」

 桟橋までの道をぞろぞろと歩きながら、少々はしゃぎ気味の若手に向かって伝える。

「分かってますけど、でも、いわゆるクルーズ周遊ですよ? 泊里さんだって、内心テンション上がってるんじゃないですか?」

 楽しそうにそう返され、思わず胸がどくりと嫌な風に震えた。

 クルーズと聞いて思い出すのは、高校の卒業パーティーだ。
 あれ以降、船になんて乗ったことはない。この間、凌守さんが東海林さんの漁船に乗せてくれようとしたが、あれだって結局乗ることはできなかった。

 内心を悟られないようにと苦笑いを返していると、私と年の近いフロント部門の社員が声をかけてくる。

「仕事だといえども、泊里さんも少しくらい楽しんだ方がいいですよ。その方が、お客様に本当の遊覧船の魅力をお伝えできると、私は思います」

 そう言われ、「それもそうですね」と返した。
 だけど私の場合、楽しむか仕事と割り切るか、以前の問題がある。
 頑張って、船に乗らなくては。
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