空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 やがて、桟橋にやってくる。そこに泊まっていたのは、思っていたよりも大きな遊覧船だった。

 まるで、二階建ての白亜の洋館を甲板の上に乗せたような、シックかつ大胆なデザインの船。デッキ部分は船首と二階の船尾部分のみで、そのほとんどが屋内となっている。
 一階にも二階にも、大きな窓が幾つもついていた。季節を問わず、海からの眺めを楽しめるようにという配慮なのだろう。

「すごい。さすが御船伊重工だ」

 同僚の声に、体がピクリと震えた。

 この船は御船伊重工が製造している。そして、運営も当ホテルと同じく御船伊グループ傘下のアルカディアポートクルーズが行っている。だからこそ、こうして社員のみの貸切クルーズを行ってくれたというわけである。

 ぞろぞろと、皆が乗り込んでゆく。私はその様子を桟橋の上で見ながら、ポケットに忍ばせてきたペンダントをぎゅっと握った。それでも、不安はなかなか消えてくれない。

 ここに、麗波はいない。だから、同じことは起きるわけがない。

 分かっているのに、心臓がバクバクとうるさく騒ぎ、私に『乗るな』と訴えかけてくる。
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