空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 私の乗船など気に留める者は誰もおらず、船は出航した。私はデッキの手摺に肘をつき、ぼうっと外の景色を眺めていた。

 二階建ての中型クルーズ船。小ぶりな船ながらも、乗り込むときにちらりと見えた内装は豪華絢爛で、天井からシャンデリアがぶら下がり、美しいピアノ曲が流れていた。

 私はそんな屋内には足を踏み入れず、ひと気が少ないからという理由でこの場所にいた。誰かに見つかれば『海の悪魔の娘』と言われ、全員の気分を害してしまうだろう。みんな、卒業のお祝いムードなのだ。

 このまま誰にも気づかれず、無事に陸に戻れたらそれでいい。

 そう思いながら、肌に触れる潮風に身を縮こませ、向こうに見える陸を眺めた。三月初めの空気はまだ冷たく、それだけで気が紛れる。
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