空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 船に、乗れた。
 その満足感から、私は気持ちを切り替える。

 高級な遊覧船にはしゃぐ後輩たちを見ながら、窓の景色や内装など、メモを取りカメラに収める。
 そこに、恐怖心はもうなかった。

 船が桟橋に戻ってきて下船すると、後輩社員が開口一番に言った。

「泊里さん、やっばり真面目すぎですよ」

 確かに、私はメモと写真に夢中だったが、それも全部お客様のためだ。

「いいの。私はこれで、すごく満足してるんだから」

 この船に、乗ることができた。

 胸を張ってそう言えることが、満足だ。
 凌守さんに出会えていなかったら、きっと私はこの船に乗る勇気も出せなかっただろう。

 私は桟橋から去り際、振り返って遊覧船を見た。彼が脳裏で「やりましたね」と笑顔で笑いかけてくる。

 会いたいなあ。
 そう思ったけれど、会うわけにはいかない。

 感謝の意を込めて、帰宅したら彼に【無事乗船できました】とメッセージだけ送ろう。
 そう思いながら、私は桟橋を後にした。
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