空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「あ、あの、えっと……」

 バクバクと鳴る心臓は、押さえられない。頭が真っ白になる。

「まあ、いいわ。その、ラウンジの個室っていうので我慢してあげる。あなたはまた、地獄を見るんだから」

 麗波がそう言って私に背を向けた時、向こうの方から聞き慣れた声がした。

「麗波さん」

 思わずフロントのカウンターの下に隠れてしまった。

「あら、早かったのね潮先さん」

 やっぱり。声の主は、凌守さんだ。

「お部屋がまだ入れないらしくって。ラウンジに個室があるから、そこでもいいかしら?」
「ええ」

 二人の会話が聞こえなくなってから、そっとカウンターから顔を出した。エレベーターホールへ向かう、二人の後ろ姿が見えた。

 初めて見る、彼の紺色の海上保安官の制服姿。その腕に自身の腕を絡めて、彼女は歩いてゆく。
 私はその様子を見ていられなくて、慌てて事務室へと戻った。
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