空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「あなたのお父様が犯罪者だと聞いた時、どうしてもそうだと思えなかったからです」
「え?」

 思わず聞き返す。見上げると、彼はこちらを振り向いて、優しい笑みを浮かべていた。

「幼い頃のあなたは、母親を亡くしてもなお前を向いて父親の自慢をする、キラキラした少女でしたから。お父様は、あなたの自慢だったのでしょう?」

 彼の言葉に、あれ、と思う。

「私たち、そんな昔にどこかで会っていましたっけ?」

 私たちが初めて会ったのは、八年前。海に沈んだ私を助けてくれた、ペンダントを届けに来てくれた、あの日のはずだ。
 すると彼は、困ったような笑みを浮かべた。

「あなたにご両親の話をするのは酷かと思って、避けていましたが、……俺、潮先陽守(はるま)の兄なんです。――十五年前、あなたのお母様が、命を張って海から助け出してくれた」

 思わず足を止めてしまうと、凌守さんも足を止め、優しい笑みのまま私をじっと見る。

 冷たい風が、私たちの間を吹き抜ける。同時に脳裏に思い浮かぶのは、幼い頃、この近くに住んでいた頃のことだ。
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