空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「でも、すごく穏やかな気持ちで、海を見ていたなってことだけは思い出しました」

 慌てて言いながら、恥ずかしくなる。
 この街に戻ってきてから、彼の隣で穏やかな気持ちになれたのは、昔のことを体が覚えていたからなのかもしれない。

「海花さんのお父様は、立派な船乗りです。お母様も、立派な海の人です。そして、あなたも」

 凌守さんはそう言って、私の頭に大きな優しい手を置いた。

「海が苦手だと言いながら、戻ってきた。海が苦手なのを克服したいと言って、実際に乗り越えた。とても立派だと、俺は思います」
「ありがとう、ございます……」

 凌守さんの言葉が嬉しい。父と母に、私も少し近づけたような気がする。

 懐かしさ、優しさ。色々な想いが胸で合わさってゆく。
 それがこみ上げて、熱くなって、目尻から溢れ出しそうになる。

 俯こうとしたけれど、彼の手が頭に乗っていてできなかった。そこから伝わる優しさとぬくもりに、離れて欲しくないと思ったのだ。
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