空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む

4 命を捨てさせてなるものか(凌守SIDE)

『国際空港沖にて、アルカディアポート発遊覧船の走行不能、及び浸水発生。避難用ボートも浸水し、乗客乗員全員が立ち往生している』

 先程電話で出動要請を受けた凌守は、走って航空基地へと向かっていた。

 国際空港へ向かう道中の電車が橋に差し掛かった時に車窓から見えたのは、中型の遊覧船。御船伊重工の製造した船だ。乗客が二階のデッキ部分に詰めかけていた。

 あの船の形状だと、全員が助かるかは時間の問題だ。それに、御船伊の製造となると――。
 既に一階部分が水に沈んでいるのに気付いていた凌守は、海に潜る覚悟でいた。

 この場所は、航空基地は近いが巡視船の泊まる港基地はない。運良く近くを走行していた巡視艇がこちらに向かっているらしいが、そこへと乗員の誘導を行うのは先発隊だ。後手の自分は逃げ遅れの対応だろう。

 凌守は焦る気持ちで海上保安基地に着く。
 誰一人、死なせてなるものか。
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