空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「盗んでなんていません。返してください、母の形見なんです」

 必死に懇願した。しかし麗波は私に軽蔑の視線を向げる。

「さすが犯罪者の娘ね。盗みも何とも思わない、しかも亡き身内を引き合いに出して同情を引こうだなんて、卑劣な女。そもそも、そのドレスだってどこで手に入れたのかしら?」
「ドレスは頂き物ですが、そのペンダントは、本当に母の――」

 言いかけたところで麗波にキッと睨まれ、私は押し黙った。すると彼女は、すぐにニヤリと笑う。

「嘘つきはとことん嘘つきなのね。まあいいわ、返してあげる。私、優しいもの」

 麗波はそう言って、私にペンダントを差し出した。慌てて手を伸ばす。しかし麗波のペンダントを持つ手は、なぜか手摺の向こうへ。そして。

 ――ぽいっ。

 彼女の手を離れたペンダントは、するすると落ちていった。
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