空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 私は慌てて、手摺に両手をつきペンダントの落ちていった先を見つめた。ペンダントは、漆黒の海の中へぽちゃんと音を立てて消えてゆく。

「ごめんなさ〜い、手が滑ってしまったわ」

 彼女がそんなことを言ったような気がしたが、私には聞こえなかった。

 大切な、母の形見。あれを失くしたら、大切な思い出も全てなくなってしまう。そうしたら、私は生きていけない。このまま絶望の底に落ちてゆくだけな気がした。

 あのペンダントだけは、どうか。私は意を決して、海に飛び込んだ。
< 19 / 210 >

この作品をシェア

pagetop