空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 翌日。検査のために数日入院することになった私は、生きる意味を見いだせず、ただぼうっと時間が過ぎるのを待っていた。
 どうして私は助かってしまったのだろう。そればかりを考え、虚しくなった。

 そんな昼下がり。病室に、見知らぬ男性が訪ねてきた。スーツ姿の彼は、一八〇センチ近くあるだろう長身で肩幅があり、そのうえ背筋もピンと伸びている。

 しかし、清潔に整えられた黒い短髪の下、目鼻立ちの整っている彼からは、不思議と怖さは感じなかった。きっと、そのにこやかな顔のおかげでもあるのだろう。
 彼は右手に、可愛らしいフラワーアレンジメントの入った袋を持っていた。

「どちら様でしょうか」

 こんな知り合い、いたらすぐに思い出せるはずだ。そう思っていると、彼は目を瞬かせる。
 だけどそれは一瞬で、彼はすぐに丁寧に頭を下げ、口を開いた。

「海上保安庁の、潜水士です」

 少し緊張したような声でそう言った彼は、頭を上げる。先ほどとは異なり、硬い表情をしていた。
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