空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 彼のその言葉に、私の中に嫌な感情が沸き上がった。
 久しぶりに聞いた『御船伊』の名前。八年前、毎日されていた仕打ちを思い出し、体が強張る。

 与流さんはその後も何か言っていたようだったけれど、私の耳には何も入らなかった。

「――それから、泊里さんは残ってください。以上です」

 与流さんのその声で、社員たちが部屋を出てゆく。事務室内には私と与流さんの、二人きりになった。

「海花、大丈夫か? ぼうっとしてる」

 彼が私を名前で呼ぶのは、プライベートの時。唐突な名前呼びに違和感を覚えたが、きっと私を心配してのことだろう。

「はい、大丈夫です」

 私は呼吸を整え、頷いた。彼に御船伊重工との関係、ましてや麗波との過去など知られたくない。
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