空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「そういうわけじゃ……」

 慌てて言うと、凌守さんはふふっと笑みをこぼす。私は恥ずかしくなって、顔を海に向けた。
 ぞわりと震えた心臓の音をごまかすように、国際空港に意識を向ける。飛行機が海の向こうに、飛び立ってゆく。

 そこで、ふと疑問が浮かんだ。

「海上保安官さんなのに、この辺りに住んでらっしゃるんですか?」
「はい」

 この辺りに、海上保安庁の施設などあっただろうか。不思議に思っていると、彼は国際空港を指差した。

「俺の職場、あそこにあるんです」
「空港、ですか?」
「そう。あの中にある、海上保安航空基地です」
「ということは、飛行機に乗ってらっしゃるんですか?」

 海上保安庁といえば海の精鋭部隊。乗るなら船だろうと思っていたから、意外だ。

「ある意味、正解です。基本的にはヘリコプターに乗るんですけどね。俺は今、海上保安庁の機動救難士として働いているんです」
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