空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 しかし、彼はそれを見逃さなかった。引っ込めかけた私の右手を、彼は素早くさっと握る。

「え、あの……」
「嫌なら離します。嫌じゃないなら、協力させてください」

 彼はそう言いながら、私の右手を包む力を弱くする。私は思わず、彼の手をきゅっと握り返してしまった。

「よろしくお願いしますね、海花さん」
「は、はい。……潮先さん」

 彼の手を握ったままそう言うと、なぜか彼は眉に皺を寄せる。

「凌守でいいですよ。俺たち、きっとそんなに年変わらないですし」
「……凌守、さん」

 年頃の男性を名前で呼ぶのは、なんとなく恥ずかしい。
 だけどきっと自分を身近に感じてほしいという彼の思いなのだと受け取り、私は小さな声でそう言った。

「はい」

 彼は満足そうに頷くと、私の手をぎゅっと握り返してくれた。
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