空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む

第一章

１ 海の思い出と不遇な運命

　八年前、金持ちの名門高校、宮代(みやしろ)学園の廊下。
　高校三年だった私は、向こうから堂々と歩いてくる巻き髪のお嬢様が目に入ると、慌ててその場に膝をつき頭を下げた。

「おはようございます、麗波(れいな)様」
「頭、高すぎ。もっと下げなさいよ」

　巻き髪のお嬢様、御船伊(みぶない)麗波はそう言うと、私の後頭部に自身の上履きを押しつけてきた。
　ぐりぐりと踏みつけられるのを、廊下にいた生徒たちが見てけらけら笑っている。

　だけど、私は抵抗できなかった。おでこが床に押し付けられるのを、じっと耐えるしかない。

「この角度よ。もう三年もやっているんだから、いい加減覚えてくださる？」
「はい」

　小さな声で答えると、彼女は去っていった。周りの生徒たちも、何事もなかったかのように散っていく。

　私はしばらくしてから頭を上げた。おでこと後頭部がジンジンと痛い。だけど、仕方のないことだ。