空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 凌守さんは観光客の流れてゆくマルマロスリゾートとは反対方向の、ひと気の少ないアルカディアポート側へ向かうようだ。

 アルカディアポートはまだその街がオープンしたばかりで、私の勤めるホテルも含め、オープンしていない施設が多い。公道として通ることは出来るが、なにかをするには何もない。

「どこへ行くんですか?」
「アルカディアポート側から、マルマロスロードを歩こうかと」

 なるほど、マルマロスロードなら、アルカディアポート側からマルマロスリゾートの海岸まで、ずっと海沿いを歩ける。
 途中に桟橋や線路下を抜けるトンネルがあるが、レンガの敷かれたお洒落な遊歩道は散歩やジョギングをする人たちも多いなと、毎日出勤しながら思っていた。

 アルカディアポートホテルの前の道を通り、潮風の吹いてくる風上へ向かう。

 やがて目の前が拓けてくると、大きな海が目に入り、私は思わず足を止めてしまった。前回来た時は暗くて分からなかったが、こんなに悠然とした大パノラマが広がっているなんて。
 ドクリ。心臓が、嫌なふうに震えた。
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