空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 すると、少し前を歩いていた凌守さんが振り向く。

「すみません、大丈夫です」

 慌てて言ったけれど、凌守さんは心配そうな顔をする。そして、戸惑いがちに口を開いた。

「手をつないでも?」

 彼は言いながら、左手をこちらに差し出してきた。
 ありがたいけど、本当に良いのかな。戸惑っていると、彼は苦笑いをこぼした。

「嫌だったら全然いいんです。けど俺、一応海の中から人々の救助をするのが仕事なんで。少しでも、恐怖心が減るかなって」
「嫌じゃないです!」

 慌てて言うと、彼は八の字にしていた眉を優しい形にする。それから私の右手をそっと掴むと、彼の左手はそのまま私の右手を包んだ。
 その温もりに彼の優しさを感じるけれど、ごつごつとした大きな手からは、男性も感じる。

「ありがとうございます。安心します」

 恥ずかしくて俯きながら答えると、私の手を握る手に力が込められる。

「マルマロスロードにベンチがあるので、そこまで行ってみましょうか」
「はい」

 私が答えると、彼は私の様子を気にしながら、ゆっくりと歩いてくれた。
< 52 / 210 >

この作品をシェア

pagetop