空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 母は、春夏秋冬問わず波に乗る、かっこいいサーファーだった。
 海の大好きな母は、海で溺れる誰かを見つけると飛んでゆく。そんな、正義感の強い人でもあった。

 亡くなる時もそうだった。家の窓から溺れている男の子を見つけると、私に『一一八番通報!』と叫んで家を飛び出したのだ。
 そんな母が、誇りだった。だから、父も同じだと思っていた。それなのに――。

「船乗りだった父は、船舶火災で亡くなりました」

 言いながら、苦しくなる。父は、海で火災を起こした犯罪者だ。

「そうだったんですね」

 私の身を案じるような、優しい声色。彼のその言葉に申し訳なくなったけれど、海上保安官の彼に「父が犯罪者だ」とは言えず、私はペンダントをきゅっと握りしめた。

「だからあの日、私も海で死ぬんだと思いました」
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