空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 しばらくして顔を上げると、凌守さんは悲しそうな顔をしていた。だけど、目が合うとすぐに優しい笑みを私に向ける。

「でもやっぱり、海はまだ怖くて」

 私は言いながら左手を下ろし、目の前に広がる海を見た。太陽を反射して、きらきら揺れている。

 母がのみ込まれ、父が死んだ海。落ちたら呼吸すら奪われて、生きることを諦めた海――。

 あの日、もがくのを止めたときの水の冷たさと息苦しさを思い出すと、やっぱり海を見ていられない。

 私はそっと顔を伏せ、もう一度ペンダントを握りしめた。

「海は地球全体の、約七割を占めています」

 不意に凌守さんが口を開いた。

「海は広いから、未知のことも多い。もちろん楽しい過ごし方もありますが、怖いものでもあります。大きな災害を起こすことだって、ある」

 彼の声が固くなって、私は顔を上げた。彼は真っ直ぐに海を見つめている。その瞳は、凛としていた。
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