空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 一歩、また一歩。海に続く道を、ゆっくりと歩く。
 足元で波の打ち寄せる音がする。だけど、きっと、大丈夫――。

「すごい、上出来じゃないですか」

 彼が私の背後を見て、ニコッと大きく微笑んだ。振り返ると、遊歩道から十メートルほど進んだところにいた。

 思ったよりも、陸地が遠い。急にバクバクと、心臓が嫌なふうに早まった。

 桟橋といえど、ここは海の上だ。恐怖にとらわれれば、四方から聞こえる波の音にあの日を思い出してしまう。足が竦み、震える。私は動けなくなってしまった。

「大丈夫ですよ、大丈夫」

 彼の頼もしい声に、繋がれていた手を思わずぎゅっと握る。だけどそれだけだと心許なくて、私は反対の手で彼の腕にしがみついた。
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