空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「しっかり、掴まっていてください」

 彼は言いながら、立ち上がる。これは、いわゆるお姫様抱っこだ。

 いつもより高い視線。海の上で、地に足がついていない状態。怖くなって、思わず彼の首にぎゅっとしがみつく。

「ゆっくり、向こうに戻りますね」

 そう言う彼の大きな胸に、耳が当たる。すると、彼の鼓動の音が聞こえて、不思議と心が凪いできた。
 一度、深呼吸をする。潮風にまじって香る、柑橘系の彼の香り。安心する、優しい香りだ。

 やがて元いたベンチに戻ってくると、凌守さんは私をそっと降ろしてくれた。ほっと安堵の息が漏れる。同時に、恥ずかしさと申し訳なさがこみ上げてきた。

 海に近付きたいと言ったのは、私だ。

「すみませんでした、取り乱してしまって」

 凌守さんが隣に腰掛けたところで頭を下げる。すると彼も、申し訳なさそうに口を開く。

「俺は全然構いません。むしろ、申し訳なかったです。もっとゆっくり、少しずつ――」
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