空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「いえ!」

 思わず彼の言葉を遮った。
 怖かったのは事実だ。だけど、後悔はしていない。むしろ、達成感でいっぱいだ。

「あそこまで、自分で歩いていけたんです。勇気を出して、よかった」

 言いながら、目頭が熱くなる。涙があふれぬようにと指で目元を押さえていると、凌守さんは目を見開き、それから優しく微笑んだ。

「あなたはやっぱり、強い人だ」

 凌守さんはそう言うと、私の頭に、大きな手を優しく置いてくれた。
 しかしすぐに、ニコッと笑って立ち上がる。

「そろそろ、お腹が空きませんか? おすすめのお店があるんです」

 彼の変わり身の早さに、思わず笑みがこぼれた。これは、きっと彼の優しさだ。

「いいですね、行きたいです」

 そう言いながら、私も立ち上がった。
 さっきまですごく怖かったのに、もう笑えている。彼の優しい振る舞いに、感謝の気持ちでいっぱいだ。
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