空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 凌守さんと私は、市場へとやってきた。
 懐かしい磯の香りがする。生臭さの混じったこのにおいが苦手な人もいるが、私は嫌いじゃない。

 市場は基本的に午前中しか開いていないから、今の時間は魚も人も少ない。もう、漁業関係者しかいないのだろう。

 ワンピースにヒール姿の私とラフな格好の凌守さんはこの場所には不釣り合いで、怪訝な視線を向けられた。
 だけど、私はすぐ市場の奥に耐水性のエプロンをつけ作業する目的の人を見つけ、近寄りながら声をかけた。

「東海林さん」

 彼が振り返る。

「あれ、海花ちゃん?」

 東海林さんは驚いた顔でそう言って、それから顔をほころばせた。

「驚いたよ、久しぶりだな」
「連絡もせず、急に来てすみません。実は、アルカディアポートホテルに異動になって、この近くに引越してきました」

 ぺこりと頭を下げて言うと、東海林さんは優しく笑いかけてくれた。
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