空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む

　視線を前へ向けると、ヘリコプターから身を乗り出していた三人のうち、二人は船の甲板へ、一人は桟橋へそれぞれ降り立っていた。

　上空のあの距離から、しかも動くヘリコプターから正確に、目的の場所へ着地する機動救難士さん。信じられない。

　あっという間に目の前で起きた出来事に思わず興奮し、周りの見物客とともに「おお」と声を漏らしてしまう。

　桟橋に降りたった彼は、腰のロープを外すと歓声に応えるように右手を挙げた。オレンジの服、ヘルメットの下。朗らかな笑みを浮かべているのは、凌守さんだった。

「凌守、さん……」

　思わず彼の名をつぶやく。普段着とは違う、かっこいい隊服姿。体格の大きな彼に、よく似合っている。

　やがて彼は、準備されていたマイクを手に取る。足元にはスピーカーが置かれており、彼が咳払いをするとその音がマルマロスロードに響いた。

「本日はアルカディアポートでの海保民間合同訓練にお越しくださり、ありがとうございます」

　凌守さんが頭を下げる。巡視艇の甲板で、ほかの海上保安官さんたちも頭を下げていた。