空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
 たくさんの海難救助に挑んできただろう彼からの言葉。堂々と発言する彼の姿を格好良く思うと同時に、父のことを思い出してしまい、複雑な気持ちになった。

 私の父は、海を軽んじた。だから職務怠慢なんてことができたのだろうし、船を火災に追い込み、そのまま命を失ったのだ。

「――ありがとうございました」

 そう言う凌守さんの声に、はっとする。顔を上げると、不意に目が合った。

 優しく微笑まれた気がして、思わず胸がどきりと鳴る。だけど父のことで申し訳なさが沸き上がり、胸がズキンと痛んだ。

 父が船舶火災を引き起こした犯罪者であることを、凌守さんは知らない。
 黙っているのは申し訳ないけれど、今は知られたくない。優しい、彼のそばにいたい。

 颯爽と巡視艇に乗り込み去ってゆく彼を見ながら、私は彼に焦がれていた。
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