空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「良かったです」

 彼はそう言って顔を綻ばせる。それから、私に自然に左手を差し出してきた。思わず胸がドキリと鳴る。

 これは、一体なんのため? つないでもいいのだろうか。
 戸惑っていると、彼ははっと左手を引っ込める。

「すみません。一応シャワーは浴びてきたんですけど、まだ汗臭かったですかね?」

 凌守さんはばつが悪そうに、自身の着ているTシャツの匂いを嗅ぐ。それがおかしくて、つい笑ってしまった。

「すみません、そういうわけじゃなくて。少し、戸惑ってしまっただけなので」

 言いながら、恥ずかしくなる。頬が熱くなるのを感じたが、凌守さんは私の言葉に目を瞬かせて、すぐに苦笑いを浮かべた。

「すみませんでした。つい」
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