空飛ぶ海上保安官は、海が苦手な彼女を優しい愛で包み込む
「むしろ、漁船が座礁した現場だと、積んでいた魚を狙ってサメや海鳥がやってきたりして、はちゃめちゃになったりします。機動救難士になってからまだ二年ほどですが、三度ほどそういう現場に遭遇しました」

 凌守さんは笑いながら言ったけれど、私の頭の中には緊迫した現場が想像された。
 当たり前だ。彼は、機動救難士。救難活動のために潜るのだ。

「すみません、凌守さんは遊びで潜っているわけじゃないのに」
「いえ。こういう穏やかな海があることを思い出すのも大切なことだなと、俺も実感していました」

 凌守さんはそう言うと、再び水槽の中を泳ぐ魚を目で追った。

 穏やかな海。
 彼のその言葉に、昔、家の窓から見た、あの海を思い出した。

 海には、いろんな顔がある。怖い時もあるが、穏やかに、命を育む場でもある。
 そんな海が、私は大好きだった。潮の香りを感じながら、優しい海を見るのが好きだった――。

 思い出しながら、私も水槽を見上げる。もうそこに、怖さはなかった。
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