桐田家のヒミツゴト(旧:合法浮気)
「桐田 智夜。32歳。先ほども話しましたがY県にあるホテル併設キャンプ場の経営をしています」
「白河 彩里です。えと、28歳です。職探し中でして……」
その日の夜。智夜さん達が泊まるホテルのレストランで向かい合って座る。泥だらけのトップスだけは着替えてきたけど、まさかこんな豪華なところでディナーをする事になるとは……。
顔を前に向ければ今日はじめて会った男の人と目が合う。
お互いの"よろしくお願いします"という言葉と共にグラスをカチンと合わせた。
次々に運ばれてくるコース料理にナイフを入れて、アルコールのグラスを空にしていく。
「年上だったんですね。もっと若いかと思いました」
「はは、よく言われる。子供っぽいかな」
「あ、いえ……そういう意味じゃなくて」
「大丈夫。分かってるよ。えーと、彩里ちゃんでいいかな?失礼だけど、妹からちょっとだけ事情は聞いたよ」
「あの、智夜さんもバツイチだって聞きました」
「茉昼から?あいつ勝手に。まぁ、そんなところなんだけど大丈夫?」
「は、はい。もう、何処にでも連れてっちゃっていいです!!」
「はははっ、勇ましいな」
声が少し大きくなって拳をつくれば、智夜さんが陽気な笑顔を見せた。
「智夜……さんこそ…いいんですか?偽りだとしても私なんかと結婚して」
「いいんだ。俺はもう恋愛に興味無いっていうか」
「……?」
「うん。……俺、好きな人がいるんだ」
「え?それじゃぁ、私と結婚しちゃ駄目じゃないですか?」
「はは、いーんだよ。結婚とか無理だし。もう、今の暮らしで十分だし」
「でも──、」
「彩里ちゃんは本当に俺でいいの?」
「私、恋愛は懲り懲りだから。甘い言葉をかけられて期待して信じて……落とされるなんて、もう散々です」
「じゃぁ、決まりだね」