桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
11.逃避行の2人
「彩里ちゃん、おはよう」
「あ、おはよう……ございます」
あの日以来、智夜さんをまともに見れないでいた。
はっきりと聞いた訳じゃないけど。
だけど、もし──。
本当に、柊くんが智夜さんと茉昼ちゃんの子供だったら。
この2人の倫理観はどうなっているのだろうか。
そう思った瞬間、ぞわりと背筋に寒気が走る。
気持ち悪い……。
普通じゃない──……。
「おはー、ともちゃー、しゃいりー」
バタンと扉が開かれて、柊くんが家の中に駆け込んでくる。少し遅れて、茉昼ちゃんが入ってきた。
「おはよう。彩里ちゃーん、昨日はバタバタしてごめんね~」
「あ……うん」
いつもと変わらない明るい笑顔。
茉昼ちゃんが右手を顔の前に立てて"ごめんね"のポーズを見せる。
──ねぇ、彩里ちゃん。
お兄ちゃんのキス、優しかったでしょ?──
昨日、そう口にした彼女が、今日は嘘みたいに落ち着いていた。
茉昼ちゃんと柊くんが、当たり前のように、リビングのテーブルに座って、智夜さんの出す朝ご飯を待つ。
「あれ、朝士は?」
智夜さんも当たり前の様に、2人の朝食を準備してテーブルの上にカタンと並べ始める。
「なんかアイツ部屋で倒れてた~。二日酔いじゃない?」
「あしゃー、ねてたー」
「はは、はじめての酒だったからな」
「ね、朝士お酒弱いのかな~」
なんて、自然に笑い合う2人。
その空気があまりにも馴染みすぎていて、胸が異常にざわついた。
まるで、こうして並んでいるのが当然みたいで。いつもと同じ朝の光景のはずなのに、ひどく異様に空気が歪んで見える。
思考がぐらぐら揺れて、頭がおかしくなりそうだ。
「おしゃけー」
「茉昼も俺も強い方なんだけどな。アイツは駄目だったか。柊はどうだろうな、強いかな、弱いかな」
なんて、智夜さんが柊くんの頭にポンと手を置いて、愛おしそうに優しく撫でる。
はじめて会った時。本当の家族に見えたけど、茉昼ちゃんから"兄"だと聞かされて、ただ仲が良い"兄妹"だと思っていたのに。
この歪な空間で、異物なのは私の方──?