桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
朝士くんが、ツリーハウスの入り口から顔を覗かせた。
「……朝士くん?」
「どうしたんだよ?もう夕方だぞ」
窓の外を見ると、空は橙色に染まりはじめていた。
日が落ちかけていることに、全然気が付かなかった。まるで、時間の感覚が抜けてしまったみたい。
「……あ、えと。二日酔い、大丈夫?」
ぼんやりとそう聞くと、朝士くんは両手で頭を押さえ、眉間に深くシワを寄せる。
「頭サイアク。大学も行けなかったし……」
「そっか」
私は膝を抱えたまま、小さく息を吐いた。
「彩里、どうしたんだよ。マジで元気ないな」
「……昨日の話。無理、なの」
「昨日のって………彩里は、智夜のこと、嫌いか?」
朝士くんが隣にドスンと腰を下ろし、後ろに両手をつき、声のトーンを落とした。
「嫌い、じゃない……と思う。でも、私、2人の前で笑える自信がない」
「ふーん。じゃあ、この家出てくのか?」
「分かんない」
「智夜のこと、無理なんだろ?」
「で、でも……形だけでも結婚してる夫婦だし、簡単に出ていけないよ」
「……」
「それに、今さら急にいなくなったら駄目でしょ?……智夜さんにも、ちゃんと説明しないといけないし、なんて説明すればいいか分かんないのに」
震える声を絞り出しながら、上下に視線を泳がせる。
「それにさ、出ていくって言っても、どこに行くの?家も仕事もないんだよ、私」
言葉が増えるほど、頭が混乱してぐちゃぐちゃになっていった。自分でもまとまりがなくなっていくのが分かるけど、口の動きが止まらない。
「生活とか、手続きとか……そういうの全部一気に変えるのって、無理じゃない?無理だよ」
膝をぎゅっと抱え直した。
「あっ、あと……私がいなくなったら、義理のお母さんも……変に思うかもしれないし」
「じゃあ、離婚すんの?」