桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「……え?」
膝に埋めていた顔をぱっと上げると、朝士くんと目が合った。
彼が寂しそうに口元を歪めから、一瞬、息が上手くできなくなる。
「あ、でも……そんな簡単に、離婚なんて……」
「なんだよ、彩里!言い訳ばっかじゃねーか!」
「……っ、」
「結婚だって簡単にできたんだから、離婚だって簡単だろ!?」
「え」
「これからどうするかなんて、先のことばっか考えるから、進めないんだよ!!」
朝士くんの大きな声がツリーハウスの中に響き渡るから、肩がビクッと大きく震えた。
「彩里、来いよ!」
「……え、ちょっ──痛いってば」
強引に腕を掴まれ、ツリーハウスを引きずり出される。
そのまま本宅の駐車場まで連れて行かれ、朝士くんが車のキーを手に持ってきた。
前にも乗ったことのある軽のジープ。押し込まれるよう助手席に入れられて、車のエンジンが音を立ててかかる。
「シートベルトしろよ」
「え、ど、何処行くの?」
「役所」
「なんで?」
「智夜と別れるんだろ?離婚届け取りに行く」
「…………え、朝士くんの運転で?」
「なんだよ?」
「わ、私が運転する!」
朝士くんの運転で病院に行った時の事を思い出して、慌ててそう口にした。
***
「彩里、運転できるんだな~」
「久しぶりで、緊張した……」
市役所の駐車場に車を停めて、小さく息を吐く。
ここに来たのは、これで2回目だった。
数ヵ月前。智夜さんと婚姻届を出しに来た時。 あと、住所変更とか、色々な手続きもここで済ませた。
あの時は、まさかこんな形でもう1度来るなんて思わなかったけど。
「……こ、こんな時間でも、結構人いるんだな」
夕方の市役所は思ったより人が多く、ざわざわとした空気に包まれていた。
その人混みに落ち着かないのか、朝士くんが当たり前のように私の手を握るから驚いた。
「ねぇ、何で手繋ぐのよ?」
「いーだろ?手ぇ繋ぐくらい」
「誰かに見られたらどうするの?私、一応、既婚者なんだけど」
「別にもう関係ねーじゃん」
「……」
顔を真っ青にする朝士くんが、私の手を引いたまま庁舎案内の地図を見上げるから。
……まぁ、しょうがないか。
なんて、呆れて震える手を握りかえした。