桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「こちらが離婚届けになります。1部でよろしいですか?」
「はい」
「あ……、こ、……婚姻届もください」
婚姻課の窓口で離婚届けを受けとった瞬間。
後ろにいた筈の朝士くんが、びくびくしながら婚姻届を頼むから、思わず振り返った。
「おー、はじめて見た!」
「なんで朝士くんが婚姻届貰うの?」
「だって俺、大人だし~!結婚できる年だし!」
「け、結婚しないからね!」
「別に貰うくらいいーだろ」
なんて、朝士くんが用紙を上にひらひらとさせ見上げながら、目をキラキラとさせている。
そんなやり取りをしていると、窓口の職員さんに、怪訝そうに目を向けられてしまった。
遊びで来てる訳じゃないけど、こんなにはしゃいでいたらして仕方がないのかもしれない。
書類を封筒に入れ役所を出る。
駐車場へ向かいながら、朝士くんが腕を大きく上に伸ばして口を開いた。
「腹減ったなー。俺、朝から何も食ってないんだよな」
「……そういえば、私も」
朝ご飯も食べないまま家を飛び出して、気付けば外は真っ暗だ。
お腹は空いているはずなのに、頭の中がぐちゃぐちゃで、何を食べたいのかも分からないけど。
「なんか食おうぜ」
「えぇ……そんな気分じゃ──」
「じゃぁ、離婚届も貰ったし帰ろうぜ」
「……あ、やっぱりなんか食べてこうか。て、朝士くん、お店入れるの?」
「おい、馬鹿にしてんのか?マッ○なら……行けるし!」
「なんで、マッ○1択?」
「あそこなら、……✕✕店なら彩都とよく行ってたし……」
「何そのギリギリ感」
思わずプッと吹き出すと、朝士くんがむっと口をへの字にさせた。
「しょーがねーだろ!」
「ふふっ。この前、カフェ入っただけで死にそうな顔してたもんね」
「あれは……マジで敵地だった」
なんて、朝士くんが真顔で言うから、また笑ってしまった。
昨日の夜からずっと息苦しかった胸が、少しだけ軽くなった気がする。