桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「マッ○、久しぶり……」
「前行ったカフェの和牛プレミアバーガーと、サイズも肉も全然違うな!」
「……当たり前でしょ!? 値段も何もかも違うんだから」
呆れながら返すと、朝士くんがケラケラと楽しそうに笑った。
食欲なんて無いと思っていたのに。
ひと口頬張ると、不思議とまた自然と口が開く。
……私、お腹空いてたんだ。
ぼんやりそんな事を考えていると、向かい側に座る朝士くんが勢いよく立ち上がった。
「足りねーな。俺、追加頼んでくる!」
「え、まだ食べるの?」
「腹減ってるって言っただろ」
なんて、朝士くんが追加オーダーしにレジへ向う。
その背中を見送る中、ポケットの中にあるスマホがブブッと震えたのが分かる。
多分、智夜さんからの連絡だろう。でも──、確認することが出来なくて。
「……帰りたくないな」
そう小さくポツリ呟いた。
丁度戻ってきた朝士くんが、ポテトが乗ったトレーをテーブルに雑に置きながら口を開く。
「どっか泊まるか!?」
「泊まらないよ!」
「帰りたくないんだろ?」
「帰りたくないけど、泊まるのはマズイでしょ?」
「なんで?」
朝士くんのその言葉に、返事が詰まる。
帰りたくない、何処か遠くに行きたい。
誰も私のことを知らない場所に──。
逃げたところで、何も解決しないのは分かってる。ただ、現実と向き合うのを先延ばししているという事もちゃんと理解してる。
嫌な事から目を逸らして、また逃げようとしてる。そんな自分に、嫌気が差す。
それでも、まだ智夜さんの顔を見られる気がしなかった。
「じゃぁ、愛の逃避行とか……」
「しません!!」
なんてぴしゃりと言いきると、朝士くんは「それでこそ彩里だー」とケラケラ笑う。その軽い言い方に、小さく息を吐いた。
「俺、いーとこ知ってる」
「……え?」