桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
朝士くんに連れられて来たのは、派手なネオンが光る大きな建物だった。
「なんと! 漫画読み放題、ネット使い放題なんだぜ!」
「……知ってるよ」
入口の看板には、"インターネット漫画喫茶"の文字。
「シャワーもあるし、Wi-Fiもあるし、ドリンクバー付き!」
前に彩都と来たんだよなー、なんて朝士くんは得意げに話し続ける。
ネカフェなんて、学生の頃以来かもしれない。
想像していた行き先と違いすぎて、なんだか拍子抜けしてしまった。
「どっかホテルにでも、連れ込まれるのかと思った」
なんて小さく呟けば──、
「は!? ……な、何言ってんだよ!!」
朝士くんが耳まで真っ赤にして慌てるから、思わず吹き出してしまう。
こんな状況なのに。
まだ笑える自分が、少しだけ不思議だった。
「ネカフェも久しぶりに来た……中ってこんな感じなんだね」
「寝転がれるんだぜ~」
案内されたフラット席は、薄い壁で区切られた小さな半個室で。靴を脱いでマットへ上がるタイプでクッションが2つ置いてあった。上の空間は少し空いていて、人の話し声が微かに聞こえてくる。
それからしばらく、お互いにお勧めする漫画を読んだり、ジュースを取りに行ったりしながら時間を潰した。
「……さっきの紙、かして」
「え?」
朝士くんが寝転がりながら、役所でもらった封筒に手を伸ばす。
中から婚姻届と離婚届を取り出し、そのまま右手にペンを持った。
「ちょ、何してるの!?」
慌てて覗き込むと、婚姻届の欄に朝士くんの名前が書かれていて、ぎょっとする。
「はぁ……。そもそも結婚って、何だか分かってるの?」
「分かってるよ。夫婦になるんだろ?」
「この前まで、"そういうのイメージない"って言ってたじゃない」
「ないけどさ」
朝士くんはペンをくるくると回しながら、当たり前のように平然とそう口にして、今度は私にペンを向けた。
「彩里も書けよ。こっちの紙に名前」
「え……、」
「書けねーの?意気地ねーな」
「か、書けばいーんでしょ!?」
震える手でペンを走らせて、離婚届の署名欄に"桐田彩里"と自身の名前を書いた。
書き終えた瞬間、本当に書いてよかったのか迷いが生じるけど。
「はぁーあ、一緒にいたいから、結婚すんじゃねーの?」
ゴロンとマットの上に横になる朝士くんが、大きな息を吐いた。
その横には朝士くんの名前が書いてある婚姻届と、私の名前が書いてある離婚届が落ちている。
……カオス。
「……結婚って、そんな簡単なものじゃないよ。色々と事情があったりするの」
「じゃぁ、何で智夜と結婚したんだ?」